知的資本経営とは

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一柳良雄 氏

通商産業省入省後、宮沢喜一、田中角栄通産大臣秘書、総務審議官などを経て2000年7月に株式会社一柳アソシエイツを設立(代表取締役社長&CEO)。あずさ監査法人顧問、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン顧問など一部上場企業の役員、顧問を多数兼務。

一柳良雄氏

成功するベンチャー企業とは

成功するベンチャー企業と、そうでないベンチャー企業の違いはどこにあるのでしょうか。そして企業が成長し続けるために、何が重要なのでしょうか。多くのベンチャー企業支援に携わってこられた一柳良雄 氏にお話を伺いました。

アクセルの創業期に一流シーズマネーファンドから出資をしていただきました。出資された時に、期待されていたことは何でしょうか?

知的資本経営との出会い

これからは知的資本が非常に重要になるということで、通産省を辞めた後、勉強会をしていたところに船橋氏が入ってきたことがきっかけです。それ以前にもアーサーアンダーセン等、色々なところと知的経営というテーマについて勉強していました。特に強い印象を受けたのは、ブルッキングス研究所のマーガレット・ブレア氏の、有形資産と無形資産に関する分析です。例えば企業価値を100とします。1978年の時点ではその内訳は有形資産が83、無形資産は17です。ところが20年後の1999年になると、有形資産の割合は31、それに対して無形資産の割合は69、と逆転するのです。

では無形資産とは何か、というところでプロパテント政策など、いろいろな動きが出てきて、これからは知恵や、付加価値といったものが日本が生きていくためには必要でしょう、ということになったのです。額に汗して24時間働いても、中国での賃金は日本の20分の1ですから。だから知恵で、付加価値で生きていくしかないな、と。

一橋大学の野中教授や伊丹教授、神戸大の加護野教授の理論など色々勉強しましたが、つまりは会社の企業価値を日本的にいかに高めるか、ということがポイントでしょう。人を大事にして会社を発展させる、それが暗黙知の大事なところだと思います。

今までインタビューした方たちのご意見も、人や組織が大事という点は共通しています。今後知的資本経営が広まったとして、あるべき姿とはどういうものでしょうか?

会社の目に見えない資産を評価し、会社の自律的な力を高めるべし

目に見えない資産が企業の持続的発展にどう関わっているか、ということを考えると、目に見えない部分で大事なことはいろいろあります。しかし、なかなかそこを定量化して表現できないわけですよね。定性化するとしても人の捉え方次第、評価の仕方次第によってばらつきが出てしまいます。医学に例えると、西洋医学は、患部を摘出するなど合理的な手法をとりますね。ところが東洋医学は体の力を高めて免疫力をつけるなど、全体の体のリズムをどうするかという視点で治療を行います。最近は両者の良い点を取り入れた、統合医療が注目されていますが、日本的な経営もそれと同じ様なものだと思っています。

最近はコーポレートガバナンスやM&Aが話題になっており、会社法も改正されました。色々なものがアメリカ風になっていますが、結局会社を動かすのは人です。そして会社には風土、歴史というものがあるでしょう。ですから全体の中のある部分だけ、例えば人事制度だけはアメリカ風にしましょう、ということはできないはずです。全体の中での関係性の問題ですから。結局、会社も人間の体と同じで、治療するには価値のある手法でやらなければいけないと思っています。

これまで多くのベンチャーの立ち上げに関わってこられたご経験から、ベンチャー企業にとって一番重要なものは何だとお考えですか?

まず人とつながる力を身に付ける

やはり最後は人でしょう。もちろん、差別化されたアイデア、技術は必要で、それがなければベンチャーとして成り立ちませんが。それがあるのを前提として、一番重要な要素は人です。例えばある人が志や情熱を持ち、周囲からの信頼も得ていれば、協力する仲間がどんどん出てくるでしょう。そして良いビジネスモデルを持っていれば、お金もついてきます。

もちろん最初から、作り出したものがマーケットに対して100%マッチするかというと、そんなことはありませんが。いろいろ浮き上がってくる課題をつぶし、ソリューションを進化させながらやっていくわけです。そのためには、外部の人間の協力が欠かせません。その協力を得るためには、その人自身が相手にとって、協力しがいのある人間かどうか、という点が重要になるのです。色々なベンチャー企業を見てきましたが、そこが一番コアになる部分だと感じています。

弊社を立ち上げた時もそうでしたが、大組織の看板がなくなると、大抵の人は会ってくれません。ベンチャー企業と大企業をつなげようと活動していても、周囲の反応は「大変なことをされていますね、体を大事にして頑張って下さいね」。その次につながらないわけです。そこで、相手との別れ際に、どうすれば相手から「今度いつ会えますか」、とか「ぜひ次回はお食事でもご一緒して、もっと詳しく聞かせて下さい」などと言ってもらえるか。いかに相手から次につなぐ言葉をもらえる回数を増やすか、という努力をしたわけです。その確率が5割以上になったのは、やはり2年を過ぎてからでしたね。

社長や経営者は、相手のどういう部分を見て、「この人は理解しているな」と判断するのでしょうか?

出会って5分で何を伝えるか

相手にまた会ってもらうためには、やはり相手のことを調べていかなければなりません。こちらの発言に相手がドキッとするぐらい。男女の関係に例えると、男は好きな女性がいれば、必ず誕生日や好みを調べますよね。ところが会社に営業に行く時は創立年月日も知らなければ、その会社の強み・弱みも調べずに行くような場合もあるでしょう。ただプロダクトアウト的な説明だけするわけです。それでは相手がまた会おうという気持ちにはなりません。だから私はいつも、「好きな女性とお客様は一緒だ」と言っているのです。

社長というのは忙しいですから、話を聞く時間があまり取れません。例えば30分の時間をもらえたとしても、説明が分かりにくければ担当者に回されてしまうでしょう。そうではなくて、偉い人と会うチャンスがあった時は、5分が勝負ですよね。だから短い時間で、分かりやすく本質を突いた説明で、ドキッとさせることが必要です。そして何かしら感動する要素を、相手に伝えられることが大事なのです。こうして次にまた会ってもらえる確立を3割、5割に上げられるということが、相手に理解してもらうということでしょう。経営者には色々な課題があり、それを忙しい中で解決していかなければならないのです。ですから、相手に一番分かっていただきたいことをきちんと説明し、相手に印象付けなければなりません。

先ほどのお話に戻りますが、情熱や信念を持った人が集まっているベンチャーは伸びるし、成果も出てくるということでしょうか?

経営とはバランスを取り続けること

そうですね。お金の方にプライオリティを置くと、何か大きな問題が発生するとばらばらっと頓挫してしまうでしょう。しかし想いを同じくして頑張っている人の集まりであれば、苦しくても皆で乗り切ろうとする。お金だけの話なら、「ここでだめなら、他でお金を回す方がリターンが大きい」など、合理的な行為になりますよね。だから事業で生きるか、お金で生きるかという価値観の問題だと思います。

問題はビジネスを伸ばしていくために、その両方の価値観の間で、どう自分はバランスを取るのかということ。人を大事にして、事業(お金)も大事にする、ある種妥協しながらも会社を運営していくことが現実の経営者の姿です。お金だけでは仲間はできませんし、どちらか片方だけでは続かないでしょう。そのバランスをどう取るかが難しいのだと思います。

そのバランスは難しいところですよね。苦しくなるとどちらかに寄りたくなるのではないでしょうか。

自社にとっての正解を見つける

その通りです。そこはベンチャーの社長の立場からみれば永遠の課題ですね。こうすれば100%解決できる、という答えはありません。正解が見つかったと思っても、1年後には別の答えを探さなければならないなど、自分で絶えず動き続けるしかありません。

もし失敗しても、良い仲間とやって失敗した時は、残念だけど自分たちの力が足りなかったと、それなりに精一杯やったというある種の清々しさがあるのではないでしょうか。そして、失敗から学び、それを次に生かしていくことが大事なのです。

現在はパソコンや携帯が普及して便利になった分、コミュニケーション能力が低くなってしまったのでしょうか?携帯があっていつでも連絡が取れるので、時間にルーズになったりすることがありますよね。

コミュニケーションの目的を認識せよ

最近ベンチャー企業でも、隣の人とメールでやり取りしているという話も聞きます。やはりツールだけに頼ってしまうと、コミュニケーション能力が落ちるのではないでしょうか。沢山の人の中で、自分をどういう風に分かってもらうか、どうやって説明するのか、ということが重要なのです。皆さんパワーポイントの資料を作るのは上手ですが、感動させるような話はあまり聞きません。また、時間の管理もできない人が多いと思います。与えられた5分とか、10分の時間の中で説明するということができないのです。
最後はやはり説得力の問題だと思います。与えられた時間でどこまで相手に理解してもらって、相手から賛同を得られるかということでしょう。

例えば営業用の資料などを作ると、その資料に拘束されてしまいがちです。現実には多種多様なお客様がいるのに、自分達の資料について一生懸命説明してしまう。そこは難しいですよね。相手の立場から見てみるなど、時々立場を変えて見ることが必要だと思います。そしてそれはお客様の目線になって、謙虚に日々積み重ねていくしかないのではないでしょうか。

個人の振舞いが会社のかたちを作る

要するに当たり前のことを当たり前にやる、それが大事なことなのです。例えば、嘘をつかない、人間は正直でなければならない、これは当たり前のことですよね。人の嫌がることをせず、人に良いことをされたら感謝をし、ありがとうとお礼を言うこと。

会社とは組織と人ですから、そういうことをきちんとすること、それが必要だと思います。テクニックではなく、人間が社会的生活を営む上での、最低限の当たり前の規律や道徳、そういうのもがものすごく大事だと思っているのです。それが事業の基本です。

そうやって良い方向に向かっていくことが、つまりは自分達の知的資本になるのではないでしょうか。会社の気持ちというか、外見ではなく、心の一番大事なところを高める、ということですから。やはり人間の、目に見えない無形資産が一番重要なのです。

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