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早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 1961年森田公認会計士事務所設立後、朝日監査法人理事長、アーサーアンダーセン日本代表を経て1998年ARI研究所理事長、日本ナレッジ・マネジメント学会理事長就任。2001年松下政経塾顧問就任、2005年国際戦略シナジー学会会長就任。 |
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予測のつかない社会を生き抜く経営 |
現在のように変化のスピードが速く、予測のつかない事態が起こる状況の中で、会社や経営者に求められるものは何でしょうか。またそこで知的資本をどう活用すべきなのでしょうか。日本ナレッジ・マネジメント学会理事長の森田松太郎氏にお話を伺いました。 |
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KM学会ではKnowledgeという言葉を使われますが、知的資本、知的資産もほぼ同意義で使われているという認識でしょうか? |
企業の見えざるバリューを表現する
言葉の表現に関していえば、リソーセス(Resources)という言葉が一番良いのではないかと考えています。キャピタルというと資本的な感覚がありますし、アセットというと貸借対照表のイメージがしますので。ヨーロッパの会計士協会でも、今後はそうなってくるのではないのでしょうか。
目に見えないものというのは組織、社会関係など色々ありますが、リソースという言葉には資源的、資産的両方の感じがあります。
「キャピタル」というとみな「資本」という言葉が頭に浮かび、Paid Capital(払込資本)だと誤解してしまい、話が合わなくなってきます。確かに会社運営の基礎は資本ですし、伝統的な会計では資本はすべてキャッシュとリンクしています。しかしIntellectual Capitalはキャッシュと必ずしもリンクしていません。例えば組織の力、ブランド力、マーケットシェアなどはキャッシュの出入りがないので、会計上の取引には当たらず、仕訳もできません。
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もともとIntellectual Capitalという言葉はどの分野の方がどのようなニュアンスで使い始めたのでしょうか? |
出資された人間の能力を効率よく運用すること
レイフ・エドヴィンソンです(笑)。いずれにせよ、会計用語を余り考慮しない人から出てきたのではないでしょうか。会社を運営する元をすべて資本だととらえ、資本を人的資本、貨幣資本に分けるとします。例えば合名会社において非財務要素も資本と考えると、パートナーシップを募る際にキャッシュで出資する人もいれば、自分の信用を出資する人もいます。そうなると、資本という概念にも知的資本が入るといえるでしょう。人間の能力を出資する訳ですから。そう考えるとキャピタルともいえます。しかし、組織・ブランド・マーケットシェアも同じくキャピタルといえるのか、というとそこは少し難しい。資生堂のブランドを1つ買った、などという場合は取引なのでキャッシュとして認識できますが。いずれにせよ、企業は財務諸表と財務諸表外のインフォメーションを出すステートメントを作ったほうがいいと思います。環境報告書や知的資産経営報告書などですね。
大きく分けると、ファイナンシャル、ノンファイナンシャルステートメントの2種類があればよいのではないでしょうか。ノンファイナンシャルステートメントの方は、どちらかというと定性的なものですよね。特に経営者の力などは、貨幣評価はできないものの、それが会社にとっては大きな力であり、基本となるものです。株主から資本が払い込まれ、その資本を運用して会社は成長していく。それを運用する主体は誰かというと、「人」なわけですよね。入ってきた資本をいかにうまく運用するかは、結局人で決まるんですよ。その人を上手く動かす為に組織があるのです。
会社にとって大切なことは、人とお金。入ってきた資本金(キャッシュ)をいかに効率良く動かすか、ということが大切なのです。少ないお金でどれだけの効果を上げられるかは、経営者の腕にかかっています。大金を使って大きな利益を上げるのは当たり前の話。小さなお金で大きな利益を稼ぎ出すことができれば、その経営者は優秀だ、ということで株価に反映されるでしょう。ネットバリューと株価(時価総額)に差が出てくるのは、やはりそういった能力の違いを反映しているのです。経営者・従業員・株主から拠出された資本をいかに効率良く運用していくか。それがナレッジだと思います。 |
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見えないナレッジには知的資産、知的資本、と呼び方は色々あります。それらには貯金のように貯まっていくストック的な面と、フローとして会社の中を流れているものを、タイムリーに上手く活用していく面がありますが。 |
見通しのつかない環境の中を生き抜くには
企業活動結果の評価方法としては、総資本利益率・自己資本利益率などがあります。これらは経営分析の方法として確立しています。ところが、これら過去の結果を見て将来を予測しても、それが予測通りにいくかどうかは難しい。経営者のこれまでの業績を見て、今後ある程度の予測ができる会社もありますが。その違いの一番大きな要素は、マネジメントだと思っています。
マネジメント能力は気象予測と似ていると思います。世の中はいつ大事が来るか分かりません。経済界を見ても、いつ為替変動や、原油価格が上昇するか、またはいつ地震が来るか、といったことは分かりません。そのような環境の中で、分からないものを上手くマネージできる人がいるかどうかが、一番のポイントになるでしょう。過去の実績だけで将来のことは分かりません。天気予報もなかなか当たらないように、世の中には予測不可能なファクターが非常に多い。1年前に原油価格がここまで上昇するとか、日銀総裁の件を予測できた人がいたでしょうか?このように不確定要素がある中で、それらに対して即時に判断・対応できる経営者がいるかどうか。そこが重要なのです。
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不確定要素というものが今の企業経営の中で増えているということでしょうか? |
求められるのは過去から脱却したマネジメント
そうです。過去の経験値では推し量れないものがでてきているのです。例えば20世紀前半には2度の大戦が起きましたが、まだ予測可能な範囲内でした。しかし20世紀後半になると、予測できない事態が発生してきます。例えば国連のような枠組みを作っても、国連の言うことを聞かないところが出てくるなど、これはもう予測できない事態なわけですよ。今だって北朝鮮がミサイルを撃つかどうかなど全然予測できません(注:このインタビューは6月22日に行われました)。ミサイルを撃つこと、撃たないことによって、ものすごく状況が変わるでしょう。経済状況にも、会社にも非常に影響がでてきます。その時にどうやって判断するか。言ってみれば経営とはリスクマネジメントです。
リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いは、リスクマネジメントは予測可能なものに対するマネジメントで、クライシスマネジメントは予測不能なもの、例えば地震、戦争や事件などが起きた場合に対応するマネジメント。会社の場合は大体リスクマネジメントでしょう。予測可能なことをどうやってきちんとマネジメントしていくかが重要なのです。
そういうことに対応できる経営者がいる会社といない会社では大きく違います。将来予測が過去の軌跡の上にあるとは言えないのが現在の環境ですから。 |
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2つのマネジメントができる経営者とはどういう方なのでしょうか? |
経営者は自分の物差を持つこと
常に勉強していて、また外国などからちゃんと情報を取っている人。それから、私は会社にとって、理念は大切だと思っています。理念とは、いわば経営者の過去の勉強の集積といえるのではないでしょうか。
人類には5〜6千年の長い歴史があります。その中の色々なことを勉強している人は過去の事象を分析して、今こうなっているのはどういった観点でとらえるべきか、ということが大体見当がついてくる。あるいは見当がつくには至らないまでも、そういうことを勉強することで自分の考え方が出てきて、それが信念になるのです。物差しや秤という道具があるように、経営の場合も判断の尺度が必要だと思っています。自分の持っている判断基準と、今の状況を比較することで判断ができるのです。だから判断できない人というのは、自分の物差しを持っていない人。決断の遅い人とは、自分の物差しと今の状況を比較することができない人。今マネジメントに一番要求されているのは判断力とスピードです。瞬間に判断しないといけない。そして過去の経験、読書などから自分で考え、自分なりの価値判断基準を持つこと。そういうものを持った人が経営者にならないといけない。
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かつては、経営でも政治でも、リーダーの教育というものは、実践よりも教養が重要視されていたのでしょうか。 |
会社の進路を決めるのは経営者のDNA
私達のナレッジマネジメントの「ナレッジ」は、人類が持っている経験のことを指しています。「ナレッジ」は経験からくる訳ですから。そういった過去の経験、ナレッジをきちんと習得しない人は結局だめなのではないでしょうか。例えば松下幸之助氏が、経営上のさまざまな経験を通して到達した結論は「素直」。全て物事の事象を素直に受け入れること、それが一番大切だと彼は言っています。松下氏は従業員の話、お客様の話、社会の判断も素直に受け取っていました。今ニュースになっているようなことは皆、事象を素直に受け止めないことから起きたのではないでしょうか。
会社を資源、リソースという観点から見れば、経営者は会社の中では一番大切な要素といえます。しかしこれは測定不能な要素で、唯一測定できるのはその人の過去の業績だけ。だがそれをもって、本当に将来を予測できるでしょうか?たまたま平穏無事な状況の中で好業績だった経営者と、困難な状況を乗り越えてきた経営者を比較した場合、将来のことを考えると、誰が見ても後者の方が能力があると考えるでしょう。そういう期待のようなものを何らかの数値で評価できればいいと思いますが、それは難しいでしょう。
スズキ自動車の鈴木会長がおっしゃるには、自分はオーナーでワンマンだから、すべてのことに対して、自分が全責任を負っていると。オーナーということは自分が大株主ということなので、会社がだめになれば自分も無一文になってしまうという危機感がある、と。その観点で考えると、オーナータイプでワンマンの会社は結局大丈夫だ、ということになります。トヨタが上手くいっているのも結局そうだ、ともおっしゃっていました。今は豊田氏が社長ではありませんが、創業時の精神は今でも生きている、ホンダも同様に、本田総一郎氏のDNAが今でもつながっている、と。
サラリーマンタイプの社長の場合は、業績が悪くなると辞めてしまえばいいので、責任を取らなくてもいいわけです。しかしオーナーは辞めるわけにはいきません。歯を食いしばってもこの会社を良くしなければならない、そういう精神のある会社でないと伸びません。鈴木氏のような人がいる会社なら嵐が来ても乗り越えるでしょう。株式会社は資本を中心に動いています。株式会社とは資本を運用し、利益を上げて配分する、ということが1つのメルクマールです。そういう視点で考えると、本当に死んだ気になってやれる経営者はどういう人でしょうか。私は、オーナータイプ、いい意味のワンマンタイプが良いと思っています。 |
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トヨタやホンダにおいては、どのようにDNAを継承されているとお考えですか? |
信念が決断を生み、決断が会社を伸ばす
トヨタの場合は改善を重ねていくこと。豊田佐吉氏は自動織機を作る際に改良に改良を重ねていました。そしてその教えを受けた豊田喜一郎氏が、あくなき改善を続けていく。それが今のトヨタのDNAになっているのです。だからトヨタは英語でいうところの、Continuous Improvement(休まない改善)を未だに行っているのです。いまでも初代の豊田佐吉氏の考え方が承継されているのでしょう。ホンダの場合も同様です。ホンダの3つの理念は、作る喜び、売る喜び、買う喜び。とくにホンダは作る喜びに徹しています。例えばジェットエンジン、飛行機、20年以上前から作っている電気自動車とか。だからあの会社では社員はみんな夢を追いかけているのです。
またスズキに話が戻りますが、消費者に受けるもの、つまり5〜60万で買える車を作ると皆喜んで買ってくれる、と鈴木社長はおっしゃっていた。また、一番驚いたことは、カリブの島に行ってもスズキの販売店があったことです。インド、中国、ヨーロッパと各地に販売店があり、とにかく決断・スピードが早いと感じました。ホンダは普通自動車の方へ伸びていきましたが、スズキは軽自動車にフォーカスして、とにかくみんなが喜ぶ安い車を沢山作ることに専念したのです。こういったことを見ていると経営者の力、先を見通す力はすごいと感じます。「判断」ができる人は多いが、「決断」できる人は少ないですね。
その違いはやはり信念でしょう。その人が価値観、人生観を持っていれば判断することができます。判断できれば、すぐ決断もできるはずです。世の中の経営者はスピードが大切だといますが、それは彼らが何か一つの判断の物差しを持っているからできることです。
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ナレッジマネジメントと我々がやっていることは基本的には同義だと思いますが、ナレッジマネジメントは、コンセプトは近いけれどもよりシステムの方面へ移行していました。今はそれがまた、本来のコンセプトに戻ってきているような印象を受けます。 |
日本式「心の経営」へ
今ナレッジマネジメントで大切なのは「心の問題」になっています。要するに、ナレッジマネジメントをいくらうまくやる仕組みを作っても、心の問題のところで皆止まってしまうのです。その止まる原因は何かというと、「皆が喜んで働かない」ということ。今までのナレッジマネジメントには、皆が喜んで働くという視点が欠けていました。適材適所ということは考慮せず、皆が知識を共有すれば上手くいくのだ、としていましたが、もうその段階は終わりました。次はもっと「心の問題」がくるはずです。こうあるべきだ、という押し付けで、みんな今くたびれてきています。そこのところを解決しないと、生産性も上がってこないでしょう。要するに組織に温かみがなくなってきていて、機械的になっているのです。「こうなるはずだ」という押し付けではうまくいきません。結局人間は、心で生きているのに、そのことを無視しすぎていたのではないでしょうか。
今、日本式経営は若干見直されてきています。日本人は従業員と一緒に食堂で食事を取るなど、同じ目線でコミュニケーションをとることをごく自然にできますね。しかし例えばイギリスでは、階級が違うため、運転手と話をしてはいけないことになっています。そういう社会と日本の社会とでは、全然効率性が違うでしょう。日本人は割とフラットで平等な社会である、という考え方をもって会社を経営します。そういう意味で、心の問題を一番よく考えているのは日本人だと思います。日本人は会社もファミリーのように感じているので、会社に対する帰属意識がものすごくありますね。帰属意識、家族意識というのは安心感につながります。今はそれが希薄になっているが、また昔のように戻るのではないでしょうか。日本では、初任給と社長の給料の差が、他の国と比べると未だに小さいでしょう。そういうフラットな、階級のない社会に世界中が変わりつつあるのではないでしょうか。そうすると、日本の考え方というものがだんだんと受け入れられてくるのだと思います。 |