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早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 (会計と管理、IR戦略、コーポレートガバナンスとグローバルアカウンティングおよび修士・博士課程プロジェクト研究担当)。日本IR協議会企画委員。日本IR学会特別顧問。全米IR協会会員。 |
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知的資産の戦略的ディスクロージャー |
なぜ知的資産(※)は重要視されるようになってきたのか、なぜIRの一環として知的資産情報を開示する必要があるのか、そして開示においてどのようなことを留意すべきなのか。
日本IR学会の初代会長であり、OECDの「価値創造と知的資産プロジェクト」と平行して進められる知的資産基本指標を用いた知的資本報告書の作成を目指した経済産業省産業構造審議会委員として、経営・知的資産小委員会に加わっている花堂靖仁教授にお話を伺いました。
(※)知的資産=特段の断りのない限り、「知的資本」や「無形資産」と同義とします |
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なぜ知的資産は重要視されるようになってきたのでしょうか? |
知的資産が注目を集めるようになったのには、二つの理由があります。
ひとつは、資本市場からの要求です。資本市場での公開企業は、みずからの企業価値を説明する必要があります。かつては財務データの説明でこと足りていたのですが、それだけでは説明しきれない部分が出てきました。「一株あたり純資産」と「時価」との間に存在するギャップはブラックボックスであり、投資家は不安定要素のなかでの判断を強いられてきたのです。そこで、ブラックボックスの中身、すなわち目に見えないものを表に出そうという動きが出てきたというわけです。
もうひとつは、企業の内部マネジメントからの必要性です。競争社会の中で、相手より優位に展開できるものを持っているかどうか。持っているとすれば、それを軸にして、利益のあげ方、仕事の仕方を組み立てていくことができます。それが本当のビジネスモデル、コアコンピテンスに裏付けられたビジネスモデルとなります。
もちろん多くの経営者は、自社の強みが従業員や顧客、ブランドといった目に見えない経営資源にあることを知っていました。ただ、自分の企業の強みを事業変革や将来の戦略へと生かすために、一度見えざる資産を棚卸しすることが必要となってきたのです。
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それは、以前とは企業経営の方法が変わってきたということなのでしょうか? |
1980年代半ばから、目に見えない価値の重要性が高まってきました。
企業経営というのは、限られた経済資源を組み合わせて、どのように有効活用するかということです。20世紀はモノをつくる、つまり、規格化された製品を大量生産することでコストダウンを図り、経済を発展させてきた世紀でした。その軸はどこにあるかというと、いわば「設備」にあったわけです。ですから、企業が資本を投下していく先も大半は、設備などの有形固定資産になる。だからこそ、土地や建物、設備、在庫などの有形資産を見れば、企業経営の全体像が分かったのです。
しかし、1980年代半ばから、そういう設備などを使わずに事業を展開する企業が生まれてきます。代表的なところでは、デルやウォルマートモデルといわれるものですね。「毎日が低価格」をコンセプトに掲げるウォルマートでいえば、「在庫を持たない」というコストダウンが利益を生み出している。そういう価値というのは、目に見えません。目に見えないものが価値をつくっているという経済の実態が、だんだんと浮き彫りになってきたわけです。
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資本市場も、その見えざる価値に注目をしはじめたということでしょうか? |
見えざる価値の存在には気付いていたのですが、年々重要性が高まってきています。
直接金融依存型の経済社会では、市場に株式を公開して資金調達を行うということが必要になります。資本市場では、投資対象として株式を位置づけますから、過去や現在よりも“将来”どうなるかが問題になる。ところが、企業が公開する財務諸表は、過去から現在までを評価するものです。しかも、基本的に目に見える有形の資産を軸につくられているものでもあります。
将来の価値をつくるのは、見えざる資産の部分です。今までとは違った販売の仕方、今までとは違ったモノのつくり方といった、目に見えない部分を生かしてビジネスをしているのか。そして、優秀な人材が集まっているのか。ところが、こういう目に見えない価値は情報化されていないんですね。財務諸表にもまったく載っていません。
実は、なんだかんだといいながら、資本市場はこの見えない部分を折りこんできました。だからこそ、「時価」と「一株あたりの純資産」の間にギャップが生まれるのです。腕のよいアナリストは企業のトップインタビューをしたりして、見えざる価値の情報を仕入れてきました。それはあくまでも補助情報として位置づけられていたのですが、年々その重要性が高まってきているというわけです。
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だからこそ、IRとして知的資産情報を開示する必要性が出てきたということですね。では、知的資産情報を開示する際、どのようなことに留意すればいいのでしょうか? |
大切なのは、情報を出していく窓口を一本にすることです。
「ディスクロージャー(disclosure)」のもとは、「dis」+「close」です。原点は「close」、閉じているところから始まります。そこに 「dis」、小さな穴を開けるということ。小さな穴からのぞかせる、それがディスクロージャーです。ところが、日本ではディスクロージャーを「公開」としてしまったために、なんでもかんでも見せなきゃいけないと思ってしまった。これが間違いのもとで、企業というのは基本的に「非公開」のスタンスであることを忘れてはいけません。
大切なのは、情報を出していく窓口を一本にすることです。有価証券報告書は経理部や財務部、IRはIRセクション、環境報告はあっち、CSR(企業の社会的責任)はこっちといった具合に、ばらばらと情報を出すことが問題なのです。不必要な情報が漏洩し、自らを窮地に追い込んでしまう可能性がないとも限らないからです。
担当する部署が分かれていてもかまいません。ただ、ひとつに統括したものとして、知的資産経営報告書を開示することが大切です。知的資産経営報告書に加えて、財務データを開示すれば、SRI(社会的責任投資)や地域社会の求めるCSR情報としても応えることができます。つまり、知的資産経営報告書の開示を軸に、ディスクロージャーを統合的にマネジメントしていくことが何よりも重要なのです。
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